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役に立つものが嫌い?【森博嗣】連載「道草の道標」第14回

森博嗣 新連載エッセィ「道草の道標」第14回


森博嗣先生が日々巡らせておられる思索の数々。できるだけ取りこぼさず、言葉の結晶として残したい。森先生のエッセィを読み続けたい。なぜなら、自分の内から湧き上がる力を感じられるから。どれだけ道に迷い込み、彷徨ったとしても、諦めず前に進んでいけることができるから。珠玉の連載エッセィ「道草の道標」。第14回「役に立つものが嫌い?」


 

 

第14回 役に立つものが嫌い?

 

【寒くなると嬉しい火の暖かさ】

 

 落葉掃除が終了しても、敷地外から風で飛んでくる落葉が気になって、ほぼ毎日バキュームクリーナで吸い込む作業をしていた。吸い込んだ落葉が溜まったら、ドラム缶で焼却している。奥様(あえて敬称)は庭木の剪定をなさっていて、切った小枝も袋に溜まるから、これも一緒に燃やす。

 この燃やすという行為は、僕の世代であれば日常的であり、ごく普通だが、今の若い人は火をつけるようなことが身近ではないらしい。煙草を吸う人が家族にいないし、キッチンのコンロも電化されIHだ。ストーブも電気かエアコンである。アルコールランプを使った実験は、今の小学校ではしない? そういえば、百円ライタと呼ばれたツールも、この頃見かけない。

 たとえば、地震や台風などで被災し停電している場合、防寒や食事のために火が必要になることがあるだろう。そんなとき、どうやって火をつけるのか? 家にはライタがないのでは? 今のクルマって、もうシガーライタが備わっていない?

 キャンプや登山をする人ならライタは必需品である。屋外で遊ぶ人、たとえば、釣りをする人や、ラジコン飛行機を飛ばす人なら、火の熾し方を知っているはず。そもそも、この「おこす」という動詞を知らない人が、今は多いのではないだろうか?

 人類は、火を利用することで寒い地方へも進出できた。防寒だけではなく、調理にも革命的な影響をもたらし、消化時間の激減によって、それ以外の活動時間を増やす結果となった。だから、ものを考え、ものを作る、といった他の動物にできなかった生き方が可能になったのである。

 この「火力」というエネルギィは、ときどき「原子力」と比較される。どちらも自然現象から学んで、人類が利用したものだ。武器として使われ、多くの人命を奪ったことでも共通している。充分にコントロールされているとはいえず、ときに事故が発生する。危険なものであるが、安全に使うことができれば、大きな利益をもたらす。

 寒い日に落葉を燃やしていると、つい手をかざし暖かさを享受したくなる。日常の生活から火が遠ざけられた昨今ではあるけれど、しかし、電気だって遠くで燃えているものによって作られている。また、電気も決して安全ではない。たとえば、小さな乾電池のプラスとマイナスを(伝導性)金属でつなげば、簡単に火をおこすことができる。

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森博嗣

もり ひろし

1957年愛知県生まれ。工学博士。某国立大学工学部建築学科で研究をするかたわら、1996年に『すべてがFになる』で第1回「メフィスト賞」を受賞し、衝撃の作家デビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか、「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、また『The cream of the notes』シリーズ(講談社文庫)、『小説家という職業』(集英社新書)、『科学的とはどういう意味か』(新潮新書)、『孤独の価値』(幻冬舎新書)、『道なき未知』(小社刊)などのエッセィを多数刊行している。

 

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